装備の軽量化に有効な選択肢であるアルコールストーブですが、風と寒さに弱いという弱点があり使用には知識と経験が必要になってきます。
そこで一つ疑問に思うのがこのアルコールを燃料として使用するには一体どれぐらいの気温にまで使用可能なのかという点だと思います。そこで今回は燃焼テストと実際に雪山に行った時にアルコールストーブを使用してみての感想を紹介していきたいと思います。
アルコール燃料の基本情報
まずは基本情報のおさらいとしてアルコール燃料を確認してみましょう。
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沸点 |
64.7℃ |
78.37℃ |
融点 |
-97℃ |
-114.1℃ |
密度 |
0.7918g/cm3 |
0.789g/cm3 |
もっと詳しく解説されておられる方もおりますのでさらに情報をししたい方はそちらをご覧になってください。
まずアルコール燃料と言いましても純粋にアルコールという成分ではなくメタノール(メチルアルコール)とエタノール(エチルアルコール)の混合によって燃料となっているのがほとんどです。
私が購入したことのある製品を一例に挙げてみましょう。
1、ケンエー 燃料用アルコール
メタノール76.6% エタノール21.4% イソプロパノール0.3%
2、大洋製薬 燃料用アルコール
となっておりました。そして重量は水に比べておよそ80%ほど軽量になっております。なので100mlを入れて重さを計測するとおよそ80gほどになります。
そしてこのアルコール燃料が実際に寒い環境で特に厳冬期の雪山で使用可能なのかということなのですが、先の表にあるとおり凍りだす融点が早い方のメタノールでも-97℃と地球上では観測したことのない温度ですので凍ってしまうことは絶対にありませんね。
しかし、ここで重要になるのが実際に燃焼する時の引火温度についてです。これはエタノールがやや引火温度が高くて純度90%ほどで17℃、メタノールでは約12℃となっております。
これが意味することは最盛夏の北アルプスにテント泊に行くのでしたら槍ヶ岳山荘みたいな標高の高い場所は別として標高2,000m〜2,500m程度の場所に夕方に湯沸かししようとするぐらいならおそらく気温15℃かぐらいなのでフリント式の火花ものやMSRのピエゾイグナイターとかの使用で着火するでしょう。
ですがお盆を過ぎて9月ぐらいになったりするともう気温は10℃を下回り、5℃以下になってくるのでこの引火温度の12℃を下回ってきます。つまり火花を飛ばすだけでは着火してくれず燃焼してくれないのです。いくらアルコールが凍らなくても意味がないのです。
アルコール燃料の燃焼実験
それではもう寒い時期にはやっぱりアルコール燃料は使えないのかと思うかもしれませんが先に結論をいいますと対策をすれば使用可能です👍ここからはその厳冬期のテント泊の気温を想定した燃焼実験を行なっていきたいと思います。
●アルコール燃料の冷却 というわけでまずは家の冷凍庫にアルコール燃料を入れて1〜2時間ほど冷却してみました。この時に撮影した温度で-16℃ぐらいにまで冷えてました。今回使用したアルコール燃料はメタノールの割合95%の大洋製薬製品のものになります。参考に寒い時にも使用可能な高性能ライターのBICライターも一緒に冷やしてみました。
燃焼テストの動画
今回は画像では非常に伝わりづらいためスマホで動画を撮影してTwitterに載せましたのでまずはこちらをご覧になってください。
厳冬期のテント泊でアルコールストーブを使用する燃焼テスト動画
— なかちん (@naka350z) 2023年1月15日
事前に冷凍庫にて-16℃ぐらいまで冷やしたアルコール燃料とビックライターとオイルマッチを用意してからトライしてみました。 pic.twitter.com/RxrUFmUSc7
①冷却したアルコール燃料の充填 まずはアルコールストーブに燃料を適量入れます。今回使用したのはRSRのアルコールストーブです。軽量でトルネード炎が上がり比較的火力の高い製品です。
②BICライターでの着火テスト 最初はライターでの着火を試してみました。このライターには-11℃ぐらいでも気化するイソブタンのガスが充填されているかなり高性能な物なのですがさすがに-16℃ぐらいにまで冷却した状態ですと全く火がついてくれませんでした💦
もちろん手で握って温めたり、お腹に入れたり、カイロを使って温めたりしてなら使用可能になるかもしれませんが、今回はそういった対策はなしにして純粋に使えるかとしてみましたがやはり無理でした。
③オイルマッチの使用 次に使用したのが100均のキャンドゥにて購入したオイルマッチを使用してのテストになります。燃料は同じく100均にもオイルマッチ用のものが販売されておりましたが、信頼性を考慮してジッポー用の純正オイルを充填した物を用意しました。
これももちろん厳冬期を想定してアルコール燃料と一緒に冷却しておりますが、さすがによく冷やしているので一発では着火しませんが数回ほどするとマッチに着火しました。
これをストーブの中に入れて着火させます。なぜか。こうやってアルコールに近づけることでアルコールが温められて引火温度にまで到達して着火が可能となります。
④アルコールストーブの着火完了 無事着火しましたので本燃焼まで待ちます。この本燃焼移行時間ですがこれは家の中で普通に20℃ぐらいの常温時と特に大きな時間差は体感しませんでした。
着火テストではこのアルコール燃料とオイルマッチを何度も冷凍庫に入れてトライしてみましたが、着かなかった事はありませんでした。
実際のテント泊での使用
これまでにも着火テストも行なっておりましたので、昨年の12/16(西穂山荘)と今年の1/5(平湯温泉)に行った時にそれぞれアルコールストーブを持っていき使用してきました。その時ですが、それぞれ使用した時の気温は西穂山荘のテント場では-13℃、平湯温泉では-8℃ぐらいに冷え込んでおりました。
結論から言いますとこの時の条件では無事湯沸かしには問題ありませんでした。どちらも調理の使用にではなく、お湯を作成するために雪を溶かしての作業に使いましたが十分使用可能でした✨
どちらともRSRアルコールストーブとフリーライトのブラストバーナーを持っていき使ってみましたが、気持ちの差かもしれませんがブラストバーナーがやはりやや燃焼効率は良く感じました。
ただ使い勝手を考えると燃料をすぐに補充できるRSRの方が楽でトルネード燃焼を見れる楽しみがあります。しかし、ブラストバーナーの轟音が良いですし燃料を補充する不便さもまた楽しみになるのでどちらにも使う楽しみがあります✨✨✨
●ガスストーブとの燃費の差について
最後にこのアルコール燃料とガス缶の燃料との燃費の差なのですが、これは何度も使用していて体感するのはRSRストーブやブラストバーナーの高効率ストーブと比較してほぼ2倍ぐらいガスの方が燃費が良い様には感じております。
ただガス缶の空の重量がほぼ100gなため私の場合だと3〜4泊以上でないとその重量差は埋まらないのではと感じております。
まとめ
本来厳冬期のテント泊なんていう僅かな準備不足が生命の危機に直結する非常に危険な環境なため暖を取ることのできる火器類の選択には非常に大切なことであります。装備の軽量化だ!といって安易にアルコールストーブを選択することはあってはなりません。
しかし、経験を積んでいくとふとアルコール燃料を使っての湯沸かしなどは可能なのかな?🤔と疑問が出てくる人もいるでしょう。そこで今回もちろん事前に家での燃焼テストを繰り返し、バックアップに普通のガスストーブも持参しての使用で臨んでおりました。
繰り返しますがいきなり厳冬期にアルコール燃料だけでテント泊に挑むのは大変リスクを伴います。あくまで経験者が安全を考慮した上で行なっております。また使用時もテント内で使っておりますが、使用中はドアパネルを開けて換気には十分注意した上ので使用です。実際にテント泊でアルコールストーブだけの使用をマネする人はほとんどいないとは思いますが、この情報が参考になればと思います。